はじめに:定例ミーティングの「あるある」
週初めの定例会や、プロジェクトの振り返りミーティング。 メンバーから出てくる報告に耳を傾けていると、こんな言葉ばかりが飛び交っていないでしょうか。
「先週はトラブル対応に追われ、思うように進みませんでした」 「自分の段取り不足でご迷惑をおかけしました。まだまだ未熟です」
一見すると、真面目で謙虚、反省点を見つめて改善しようとする良い姿勢に見えます。 しかし、ふと周りを見渡すと、全員が「できなかったこと」や「自分の至らなさ」ばかりを語り、どこか空気が重くなっていないでしょうか。
多くの組織やチームにおいて、「自分の成果やできたことを語る(自己称賛)」ことは慎むべき礼儀とされ、逆に「自分の未熟さや失敗を開示すること」が、手軽な連帯感や仲間意識を生むための手段になってしまうという現象が起きています。
今回は、この「未熟さの連帯」の正体を解き明かし、本当に人が育ち成果が出るチームの条件、そしてリーダーが持っておくべき「覚悟」についてお話しします。
1. 「未熟さの共有」という心地よい罠
なぜ私たちは、「うまくいったこと」よりも「できなかったこと」を共有したがるのでしょうか。
人間の脳には、もともと「危険や欠点、ネガティブな情報に強く注意が向く」という性質があります。さらに、同じ職場で働く同僚同士の間では、「あいつだけ目立っている」「自慢しているのではないか」と周囲から警戒されることを本能的に避けようとします。
その結果、職場の会話には無意識の「暗黙のルール(会話の型)」が生まれます。
- 成果を話すこと:
「自慢」「マウンティング」と受け取られかねず、人間関係をぎくしゃくさせるリスクがある。 - 未熟さを話すこと:
「自分も同じように悩んでいる」「大変だよね」と誰もが共感しやすく、波風を立てずに仲間意識(連帯)を作れる。
つまり、「未熟さの共有」は、誰にとっても安全で心地よい防衛策なのです。
しかし、ここに大きな罠があります。
「みんな未熟だから仕方ないよね」「今週もバタバタだったね」とお互いの傷を舐め合っているだけでは、組織の基準は上がらず、いつまで経ってもチームの力は底上げされません。
弱音を吐き合えることは大切ですが、それが「成長しなくてもよい言い訳」になってしまっては本末転倒です。
2. 「何ができているか」を共有するチームをつくる —— マスタリー(上達)風土の育て方
では、本当に強いチーム、お互いに関心を持って学び合えるチームは、何が違うのでしょうか。
それは、ミーティングや日常会話の中で、「今、何ができているか」「どこが以前より良くなったか」を堂々と共有し合える文化があることです。
ここで鍵となるのが、組織づくりの考え方である「マスタリー風土」です。
【マスタリー風土とは何か?】
「マスタリー(Mastery)」とは、日本語で「習熟」「上達」「工夫を極めていくこと」を意味します。
ビジネスの現場には、大きく分けて2つの風土が存在します。
- 「結果の出来・不出来」ばかりを語る風土(パフォーマンス重視):
「勝ったか負けたか」「目標数字に届いたか届かなかったか」という最終結果の白黒だけで人を評価する空気。ここでは、失敗した人は肩身が狭くなり、成功した人への嫉妬が生まれやすくなります。 - 「上達や工夫のプロセス」を語る風土(マスタリー風土):
結果だけでなく、「今回、どんな新しい工夫を試したか」「以前と比べて何ができるようになったか」という上達のプロセスに目を向け、お互いに認め合う空気です。
「何ができているか」を共有する目的は、自慢大会をすることではありません。 一人のメンバーが見出した「小さな成功パターン」や「業務効率化の工夫」を言葉にして共有することで、周りのメンバーが「それ、どうやってやったの?」「自分の仕事にも取り入れられそう」と関心を持ち、お互いの知恵を学び合う(学習する組織になる)ことが真の狙いです。
「弱音を言っても攻撃されないこと」だけが心理的安全性ではありません。 「自分が工夫してうまくいったことを、後ろめたさなく堂々と共有でき、周りも素直に拍手を送れること」。
これこそが、チームを前進させる真の心理的安全性です。
3. 自立した個が集まるからこそ増える「感情労働」への覚悟
「何ができているか」を認め合い、各自がプロとして自立して仕事を進めるチーム。 これは理想的な組織の姿ですが、リーダーが一つだけ、あらかじめ覚悟しておかなければならない現実があります。
それは、「メンバーが自立し、一つのチームとして過ごすほど、リーダーの『感情労働』はむしろ増える」ということです。
感情労働とは、肉体や頭脳だけでなく、自分の感情や周囲の心理状態に気を配り、場を整えるために払うエネルギーのことです。
たとえ優秀で独立心のあるメンバーが揃っていても、人が集まって協働する以上、
- 「成果を共有したときに、周囲が引け目を感じないような配慮」
- 「沈黙しているメンバーの小さな工夫を拾い上げる問いかけ」
- 「お互いのプライドや意見がぶつかったときの細やかな橋渡し」 といった、
目に見えない心理的ケアや調整が必ず発生します。
「みんな大人なんだから、自立して勝手にうまくやってくれ」と突き放すことはできません。 自立したプロ同士だからこそ、相手を尊重し、建設的な協働関係を築くためには高度なコミュニケーションが必要になります。
良いチームを作ろうとするリーダーは、「チームを運営する以上、この感情労働からは逃げられない」という覚悟を腹に据える必要があります。 この見えないコストを引き受け、泥臭く「できたこと」に光を当て続けるリーダーの存在があって初めて、チームは「傷の舐め合い」から「お互いを高め合う集団」へと脱皮できるのです。
おわりに:リーダー自身の「思考と感情」を整理する場所を
「何ができているかを共有する大切さはわかる。でも、日々の業務に追われ、メンバーへの配慮や調整に神経をすり減らして、リーダー自身が息切れしそうだ……」
もしあなたがそう感じているなら、それはあなたが真剣にチームと向き合い、膨大な感情労働を引き受けている証拠です。
チームの会話の型を変え、マスタリー風土を根付かせるには、リーダー自身に一定の「心の余白」と「冷静な思考の軸」が必要です。孤独に抱え込んだままでは、どんなに優秀なリーダーでも感情がすり減ってしまいます。
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私メンターHSは、自らも現場組織をマネジメントし、様々なプロジェクトを牽引してきた実践者として、ビジネスリーダーの皆様の思考整理・チームづくりの壁打ち相手としてマンツーマンで伴走しています。
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今日も最後までお読みいただきありがというございました。
