1. はじめに:なぜ「売上」だけでは不十分なのか
前回のプロジェクトでは「時系列トレンド」を分析しましたが、ビジネスの現場では「売上が高い商品」が必ずしも「会社の利益に貢献している商品」とは限りません。
本プロジェクトでは、「売上(Volume)」と「利益率(Quality)」の2軸を用いて、商品を評価するポートフォリオ分析を行いました。目的は、膨大な販売データの中から、リソースを集中投下すべき「スター商品」を特定し、データに基づいた経営判断を支援することです。
2. 使用ツールとデータセット
- データセット:
bigquery-public-data.iowa_liquor_sales.sales- アイオワ州の酒類販売管理データ(大規模な実トランザクションデータ)
- 33,011,454行のデータでした
- SQL (Google BigQuery): 粗利益額と利益率の算出、データクレンジング
- BI (Tableau Public): 散布図(スキャッタープロット)による4象限分
3. SQLによる収益性データの抽出
まず、BigQueryを使用して、商品カテゴリごとのパフォーマンスを集計しました。ここでは単なる売上集計だけでなく、原価データを用いて「利益」と「利益率」を正確に算出しています。
工夫した点(SQLスキル):
- 利益計算:
売上 - (原価 * 数量)で正確な粗利を算出 - エラー回避:
SAFE_DIVIDE関数を使用し、ゼロ除算エラーを防ぐ堅牢なクエリを設計 - ノイズ除去: ビジネスインパクトのあるカテゴリに焦点を当てるため、一定の売上規模($100,000以上)でフィルタリング
/* 実行したSQLコード */
SELECT
category_name,
SUM(sale_dollars) AS total_sales,
SUM(sale_dollars - (state_bottle_cost * bottles_sold)) AS total_profit,
-- ゼロ除算を防ぎつつ利益率を算出
SAFE_DIVIDE(
SUM(sale_dollars - (state_bottle_cost * bottles_sold)),
SUM(sale_dollars)
) AS profit_margin,
COUNT(*) AS transaction_count
FROM
`bigquery-public-data.iowa_liquor_sales.sales`
WHERE
date >= '2022-01-01'
AND sale_dollars > 0
GROUP BY
category_name
HAVING
total_sales >= 100000
ORDER BY
total_sales DESC
LIMIT 100;
▼ BigQueryでの実行結果(CSVエクスポート) [ここにBigQueryの結果画像

4. Tableauによる可視化:4象限ポートフォリオの作成
取得したデータをTableauに取り込み、散布図(Scatter Plot)を作成しました。

可視化の戦略:
- 2軸の配置: 横軸に「売上」、縦軸に「利益率」を配置し、各カテゴリの位置関係を可視化。
- 4象限の分割: アナリティクス機能で「平均線」を引き、商品を4つのグループ(スター、金のなる木、問題児、負け犬)に分類。
- 多次元情報の付与: 「円のサイズ=取引回数」、「色=利益総額」とすることで、一目でビジネス規模を把握可能に。

▼ プロフェッショナルな調整: 当初、利益率の差がわずかであったため、商品が一直線に並んで見えました。そこで「軸の編集(ゼロを含めない)」を行うことで、0.1%単位の利益率の攻防をズームアップし、隠れた優位性を可視化しました。
▼ 完成したダッシュボード

5. 分析結果とビジネス・インサイト
グラフの分析から、以下の明確な結論が導き出されました。
- 絶対的エースの特定: 右上の象限(売上・利益率ともに平均以上)に位置する 「AMERICAN VODKAS」 が、圧倒的な取引量と最高の利益額を誇る「スター商品」であることが判明しました。
- 利益構造の発見: 多くの商品の利益率が33.3%付近に集中していることから、州の規制による価格設定の影響が読み取れますが、そのわずかな上位に位置する商品群こそが、真に注力すべきカテゴリです。
結論: マーケティング予算は、漠然と分散させるのではなく、最もROI(投資対効果)が高いと証明された「AMERICAN VODKAS」および右上の象限にあるカテゴリに集中投下すべきです。
6. まとめ
このプロジェクトを通じて、以下のスキルを実証しました。
- SQL: ビッグデータからの正確なKPI(利益率)算出とデータ抽出。
- Tableau: 散布図とリファレンスライン(平均線)を用いた高度な分析。
- 分析思考: 単純なランキングを超えた、多角的な視点(売上×利益率)による戦略立案。

